メンバーの写真が順に映し出される映像に合わせてステージに登場、全員でドーンと一発鳴らして「お前ら暴れる準備できてんのか?」と猪狩がひと言。間髪入れず「Endless Sorrow」を投下し、ピット全体が即ダンス天国に変貌した。跳ねる人、頭を振る人、名前のないステップを踏む人、上空に向けて正拳突きを続ける人……歓声もモッシュもダイヴもないが、その代わりに十人十色の暴発が同時多発している。ダブもスカも2ビートもなんでもござれなミュータント・メロディックパンクの本領をいきなり見せつけるHEY-SMITHである。「BLAZE UP NAGASAKIは年に1度のお祭りなんだ、やるならド派手にやろうぜ!」という言葉からなだれ込んだ「Over」では爆走2ビートと裏打ちが入り乱れ、YUJIと猪狩の掛け合いによって楽曲の体感スピードが増して響いてくる。かなす、イイカワ、満のホーン隊も好き放題に暴れまくって、その狂騒感に耳も視覚もジャックされてしまう。ド派手に暴発するステージはいつのことではあるが、やはり仲間や友達を背負ってステージに立った時のHEY-SMITHの気合いは凄まじい。友達の前だからこそ圧倒的なライヴを。このBLAZE UPに集ったバンド達はみな同じ気持ちでステージに立ってきただろうし、それこそが仲間への最大の敬意の表し方だとそれぞれが承知しているのだ。
「BLAZE UP NAGASAKI開催おめでとう。俺らはデビューもほとんど一緒で、バンド人生を共にしてきました。15年経ってこんなヤバい祭りを作ってくれていることが嬉しい」とは言いつつ、音は徹底的に鋭い。
「落ち着いて観たい人、ガーッとなりたい人、その中間でどうしようかなって考えてる人、いろんな人がいるのはわかってる。でも、どうしようかなって考えてる間に音楽は鳴っちゃってるから。とにかくやろうと思ったことは全部やって帰れ!」。猪狩がそう叫んでから演奏されたのは「Be The One」。「Be The One」はHEY-SMITHの個性を全部盛りにして結晶したような楽曲だ。音楽シーンに限らず個々人の正義がぶつかり合ってしまいがちな今、ライヴにおけるスタンスや考え方がそれぞれに委ねられている状況だからこそ意見がぶつかってしまいがちな今。その中にあって、疾走するビートもダンサブルなセクションもヘヴィに落とすパートも一気に叩き込んだこの楽曲は、「ひとつになろう」ではなく「お前はお前であれ、思うようにやれ」ということを表現し切っていると言えるだろう。踊りたいヤツは踊れ、走り回りたいヤツは可能な範囲で走れ、頭を振りたいヤツは存分に頭を振れ。正義は人それぞれだとよく言うが、HEY-SMITHが表現しているのもまた、個人が個人を貫いて存在を表明し、それを尊重するための音楽だ。そもそもパンクもスカもそういう精神性から生まれたものであって、だからこそ、それらを豪快に混ぜ合わせるHEY-SMITHの音楽は人それぞれの自由を引っ張り出せるのだと思う。
「ご機嫌なお前達、新しい曲でもついてこられるかい? サビに歌がないから、サビになったら踊るだけ。踊りまくれよ!」という言葉から雪崩れ込んだ「Inside Of Me」もそうだ。自分にしかないダンスで自分を表現しろ、それぞれに自分を解放しろ、そうして個人が個人のまま人と混ざってクロスできる空間こそが理想郷だーーそんなメッセージがあるからこそ「サビは踊るだけ」というこの楽曲が生まれたんじゃないかと思うし、じっとりとしたグルーヴが印象的なこの楽曲もまた、HEY-SMITHのライヴが表す「自由」のありかを伝えている。さらに「I’m In Dream」や「We Are…」といった、SHANKとの歴史を振り返ったからこその懐かしい楽曲も披露、ひたすらハイなエネルギーが加速し続ける爆走ライヴだ。
「コロナ禍があって考えることがあったり、ライヴでも建前を話さなくちゃいけなかったりするけど、SHANKと話すと全部楽になる。あいつらは何にも囚われてないし、あいつらと話すことで何回も助けられました」とSHANKへの感謝を述べつつも演奏時間が押し、「あとでSHANKにも運営にも謝るから、1分だけやらせてくれ!」と懇願して披露したのは「Come back my dog」。自由にやればいい、だけどそれは好き放題とは違う。自分にとっての正義を考え、それを行動に移せーー自由の意味を精神的にも音楽的にも示した、あっという間のパンクロックショーだった。
<セットリスト>
01. Endless Sorrow
02. Dandadan
03. Over
04. Fellowship Anthem
05. Be The One
06. I’m In Dream
07. We Are…
08. Radio
09. Inside Of Me
10. Summer Breeze
11. Don’t Worry My Friend
12. Come back my dog
文:矢島大地
写真:岩渕直人