SHANK
鋭い音塊、ピースな精神。故郷でSHANKの本質を示す、これ以上ないファイナルアクト

 いつもの「Backyard」(Mad Caddies)が流れ、いつも通りの着の身着のまま、いつも通りゆったりとSHANKがステージへ。激情ライヴの金太郎飴状態だった1日も、あっという間にファイナルアクトの時間である。「ヘイ、BLAZE UP! SHANK始めます!」という短い口上から「Rising Down」をプレイ、続けて「620」では小気味いいスカに乗って観客は思い思いのダンス。さらに2ビートが疾走する「Good Night Darling」は、爽快感があると同時に3音の鋭利さが際立ってフロアに突き刺さるようだ。いついかなる場所でも変わらぬ自然体とリラクシングな表情を見せてきたバンドだが、それでも一打一打の鋭さ、一音一音の立ち方には強烈なパンチがある。つんのめりそうなスピードのギリギリのところでせめぎ合う3ピースならではの張り詰めた緊張感が音に宿り続けている点に、改めて感嘆するライヴだ。その飄々とした表情からは窺い知れないが、このバンドの研ぎ澄まされたアンサンブルはやはり凄い。「Departure」や「Hope」のようにグッドメロディ一発で突き抜けていく楽曲でも、3音の歌心がしっかりと絡み合って、疾走感以上にアンサンブルの豊かさに耳が行く。冒頭から絶好調、いきなりトップスピード。それでこそアンカーである。

 もちろん、この1年でライヴの状況が飛躍的に前進したことも大きいのだろう。フルキャパシティでのライヴ実施、椅子を取り払っての全スタンディングライヴ。大合唱こそできないものの、フロアとステージの交感は速くなり、熱くなり、バンドが一気に乗る瞬間が目に見えて多くなった。当然のことを言うが、やはり目の前の一人ひとりと何かを交わしながら熱の塊を膨らませていくのがロックバンドなのだなと実感する。このライヴも、今日一日の盛り上がりも、一人ひとりの衝動がクロスしていることをお互いに感じ合える環境に後押しされたものなのは間違いない。その上でSHNAKに呼ばれたバンドはSHANKに突き刺すライヴを果たし、SHANKもきっちりとその想いに応えるわけだから、そりゃ素晴らしいライヴばかりになる。当然、SHANKも完全に乗っている。

「バンドが煽らなければ声出していいらしいっすよ。ルールがもうわからん。だって、あんたら転換中はバリ喋るやん。なんでバンドが出てきたら黙るん?」(庵原)

 そんな話をしつつも、庵原も松崎も観客を煽るようなことはしない。それこそ今日出演した盟友バンド達と歯を食いしばって守ってきた場所なのだから、あと一歩、あともう少し、耐えながら進むべきなのだとはっきりと理解している。観客も、自分達の意志でこの場所を守るために自分達の自由を縛られても拳を握ってやってきたのだ。過剰なルールを課さなくとも、それぞれの自治が働く場所としてBLAZE UPもまた素晴らしいフェスである。そして自治の精神とはまさにパンクやハードコアの根源にあるもので、つまりSHANKをはじめとしたバンド達の本質そのものが人にも場所にも宿ってきたことの証のような日なのだ。

 ライヴに話を戻そう。松崎による「僕、キンタマがひとつしかないんです。でも、片方を今日見つけたんですよね。龍が追っかけてたやつです(本日のオープニングレポートをご参照ください)」という迷MCの直後に演奏されたのが「High Tide」。そのMCの後にその曲をよくやるな、と思ってしまうほど、コロナ禍の最中で身も心も閉じ込められた自分を歌い上げるエモーショナルな内省の歌である。ここで歌われるのは、ひとり歩くホームタウンの景色(=長崎)。このバラッドとも言える楽曲から滲んでくるのは、改めてSHANKが長崎という街を抱き締め、ここで生まれて生きてきたこと自体が財産なのだと再確認していく過程だ。そもそも今年リリースされたアルバム『STEADY』自体が、塞がれた日々を乗りこなしていくためにSHANKの持ち得る全要素をかつてなくシンプルに解放した作品だった。生きてきたこと、生きていくことを想い、だからこそこの街を起点にして出会ってきた人を大切に包む視点も本作以降に強まったのではないか。このBLAZE UPはまさにその想いを表現するための場所なのだろうし、生活と地続きのところで音楽やバンドと取っ組み合ってきたSHANKの在り方がより説得力を増して響いてきた。地元・長崎の朋友、ザ ・アンドロイズのカバー「Once Again」では仲間の存在がそのまま楽曲として鳴らされ、長崎の児童歌「でんでらりゅう」を引用した「Knockin’ on the door」は故郷へのお返しのように響いてくる。ノンストップのライヴの中に、存分に郷土へのメッセージと感謝が込められているライヴだった。

「この日ばっかりは、ありがとうしか出ません。MAHくんが言ってた通り、ありがとうしか言うことがないです。MAHくんはビジネス悪魔だけど、俺らはシンプルに性格が悪いんで(笑)。そんな俺らでもありがとうと思ってますから。今年はやっと椅子がなくなったし、ちょっとずついろんなことがよくなっていけばいいなと思ってます。ピースに行こう」(庵原)

 地元・長崎を起点にし続けるSHANKの活動を郷土愛と名づける人もいるだろうし、それをローカリズムと呼ぶ人もいるだろう。じゃあSHANKにとってはどうなんだろう。きっとこのBLAZE UPを、長崎を、シンプルに「好きな人と出会って共に生きてきた場所」と表すんじゃないだろうか。友達の笑う顔が見たいから長崎に着火したい。守りたい人がいるから安心して遊べる場所を作りたい。大事な人がいるからこそ怒るべきことには怒りたいーーそしてそんな想いで作った場所がSHANKにとっても帰る場所になって、またSHANKは旅に出て行けるのだろう。日本中を飛び回ってライヴに明け暮れながら作ってきた仲間、仲間、仲間。だからこそ自分らが生まれ生きてきた場所の仲間にもその仲間を見せたい。そんな気持ちがBLAZE UPの心臓であり、今改めてSHANKの音楽の背骨になっているんだと思う。ラストの「Steady」で歌われるのは、ここまでの人生の回顧と、<Moving on>という決意だ。人という財産があるからこそ動き続ける。まさにSHANKのアティテュードを表す楽曲に、今日この日が結晶しているように思えた。

<セットリスト>
01. Rising Down
02. 620
03. Good Night Darling
04. Departure
05. Karma
06. Hope
07. Life is…
08. Hight Tide
09. Set the fire
10. Once Again
11. Knockin’on the door
12. Wake Up Call
13. Love and Hate
14. Steady
Encore
01. Wall Ride
02. Honesty
03. submarine

文:矢島大地
写真:岩渕直人